パルテヱル物語〜雛菊〜
「Life is the flower for which love is the honey」
人生は愛という蜜を持つ花である
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花弁に足をかけ蜜を吸うことに夢中な蝶を見つめていた。
學校の中庭には丁寧に手入れされている満開の花壇たち。
迷い込んだ蝶にとっては、まさに天国のような花園だろう。
………柚乃さま…!
蜂蜜色に咲き誇る水仙の花壇。
その横に腰をかけて趣味である読書に夢中にになっているのは、私が慕うただ1人の上級生。
「雛ちゃん。今日も蝶をみていたの?本当に好きなのね。」
"蝶を見ていた"なんて口実に過ぎない。
理由なんてひとつだけ。
「ほら、隣にいらっしゃいな。」
少し端に寄り空けてくれた隙間に腰をかけると、私の膝元には柚乃さまの影がかかっていた。
そっと、影に手を重ねる。
ばれないように。
それだけで、嬉しくなる。
緩む口元に力を入れ、隣を見ると
………また遠くを見ている。
その瞳は寂しげで、まるで誰かを想っているよう。
柚乃さまが一度ブーケとなり、
また一輪の花となったのは噂で聞いた。
きっとその妹のことを時々思い出すのだろう。
「…柚……乃、さま?」
「あら、雛ちゃん。どうしたの、そんな顔をして。」
どんな顔をしていたのか自分では分からない。
でもまあ、"そんな顔"になっていたのだろう。
「……柚乃さまがあまりにも遠くを見ていたものだから。何かお悩みでもあるのかと…」
「大丈夫よ。大丈夫。」
そう言って笑顔を見せるがまたすぐ、
遠くを見ている。
切なくて。
悔しくて。
視界が、滲む。
滲んでゆく。
雛菊が、おりますよ。
気がつくと自分の気持ちをぶつけていた。
溢れそうなものを堪えながら。
昂ぶった感情を抑えることが出来なかった。
申し訳無さそうに私を見てる。
そんな表情を、させたかったんじゃない。
膝の上のこぶしに力が入る。
そのこぶしを温もりが包んだ。
ブーケの誘い。
信じられない。
夢、なの?
今なんと言ったのです?
"私の。柚乃の妹として側に居てくれないかしら。ずっと。"
「それと。生徒会、一緒にやらない?」
嬉しくて、嬉しくて、
首を何度も縦に振った。
「はい…!はい、勿論です!」
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目に焼きつくようなオレンジ。
西日が眩しい。
紀京さまは、気を遣ってくださったのだろうか。
椿さまは私に何が聞きたかったのでしょう。
そんなことよりも今この教室には姉と、私。
そして、初めてみた姉の様子。
「柚乃さま!少し窓を開けましょう!もう涼しくなってきた頃ですよ。」
窓を開けると、私たちの髪が揺れた。
柚乃さまは私を見つめている。
ーーーずっとそばにいてくれるわよね?
私も柚乃さまを見つめる。
ーーー大丈夫、雛菊がおそばにいますから。
初めて柚乃さまに駆け寄った時。
優しい光に吸い込まれていくようだった。
それがなんだか、
とても心地が良かったのですよ。
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